『ベンゾジアゼピン系睡眠薬の功罪』
人間の身体は約60兆個の細胞からできています。それぞれの細胞はその表面に多くの受容体(リセプター)を持っており、多くの薬剤はその中で必要な受容体を選択して結合します。
γ-アミノ酪酸(GABA)という神経伝達物質があります。GABAは中枢神経系において豊富に分布していますが、その主な作用は神経活動の抑制にあります。「ベンゾジアゼピン」という薬剤は神経表面に存在するGABAの受容体(GABA-A 受容体)に結合します。その結果、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は、脳の活動を休ませて眠りへと導きます(睡眠導入)。加えて鎮静・抗不安・抗けいれん・筋弛緩などの作用があります。
ベンゾジアゼピンは、その作用時間により短時間型・中間型・長時間型に分類されています。短時間型(リーゼ)と中間型(ワイパックス、コンスタン)は主に不眠症の治療に、長時間型(セルシン、メイラックス)は主に不安の治療に処方されています。
「多岐に渡る副作用」
ベンゾジアゼピン系睡眠薬の副作用として、眠気、めまい、集中力の欠如などがあります。また、運動機能や姿勢制御機能の低下によって転倒や怪我を招くこともあります。運転操作の支障により交通事故の可能性が増加します。さらには健忘、認知障害、てんかん発作、攻撃性、暴力、衝動性、自殺行動などの有害な精神的・身体的影響なども報告されています。
また、通常予想される事とは反対の反応を示す場合もあります。例えば、パニックの状態がベンゾジアゼピンを服用することで悪化する場合があります。
どうして副作用がこのように多岐に渡るのでしょうか。それは中枢神経におけるGABA受容体の分布の多様性にあります。視床下部や扁桃体には不安や不眠に関係している神経が存在し、ベンゾジアゼピンはこれらの神経に存在するGABA受容体に結合することで、不安や不眠を改善します。これが期待される主作用ですが、GABA受容体はこれらの神経以外にも中枢神経には広く分布しています。
小脳のGABA受容体に作用すれば運動機能の低下、大脳皮質のGABA受容体に作用すれば認知機能の低下が起こります。攻撃性、暴力、衝動性、自殺行動などは脳が司る高次の精神活動低下により引き起こされます。高齢者では、長期間の服用による有害反応に苦しむリスクが高く、認知症のリスクの増加にも結びついていまます。このように「ベンゾジアゼピン」は様々な中枢神経の活動を広範囲に渡って低下させる薬剤であるということを認識すべきです。
「効果の減弱」
受容体と結合して神経伝達物質やホルモンと同様の作用を起こすクスリをアゴニスト(作動薬・刺激薬)といいます。アゴニストがこの受容体を占拠し刺激し続けると、受容体の感受性が低下してくることが薬理学的に証明されています。このことが、種々の作動薬を長期間服用しているとその効果が弱くなってくることの原因と考えられています。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬は「GABA受容体作動薬」です。この薬剤の長期間に渡る服用により、徐々効き難くなってくることがよくあります。デパス1錠で眠れていたのが、やがて1錠では眠れなくなり2錠に増やすことになります。このように対処方法としては、投薬の増量がまず挙げられますが、その結果、上記のような副作用の発現頻度が高まります。
あるいは、別の薬剤の追加投与が考慮されますが、その結果多剤投与による相乗作用により新しい未知の副作用が現れることになります。この弊害がとくに精神神経疾患の臨床現場で大きな問題になってきています。
「離脱症状(ベンゾジアゼピン離脱症候群)」
ベンゾジアゼピンの長期間の使用に伴う有害作用により悪化した身体や精神の症状が、ベンゾジアゼピンから離脱することにより改善されることがよくあります。しかしながら、一方でベンゾジアゼピンには長期間の使用後に減薬・断薬した場合、離脱症状を生じさせる危険性が指摘されています。
ベンゾジアゼピンの服用によりその依存性が形成されて後に、用量を減量するか、断薬することによって生じる一連の症状が「ベンゾジアゼピン離脱症候群」(出現頻度:15-44%)と呼ばれているものです。
深刻な睡眠障害、不安と緊張の増加、パニック発作、手の震え、発汗、吐き気やむかつき、動悸、頭痛、知覚変化、幻覚、てんかん発作などがあります。これらの症状は単純に直線的に減少するのではなく、重症度が日々あるいは週ごとに変化し、一進一退します。
ベンゾジアゼピン離脱症候群の発生機序についてはよく解明されていません。ベンゾジアゼピンの慢性的なGABA受容体刺激が、減薬・断薬により早急に消失することによる広範な中枢神経系の混乱の可能性が考えられています。
時に、離脱症状は「躁鬱病」や「統合失調症」のような状態に似ていることがあり、担当した医師が「ベンゾジアゼピン離脱症候群」と見分けられなければ、「躁鬱病」や「統合失調症」に対する別の種類の薬剤(抗うつ薬や統合失調症薬)の投与にもつながり、新たな悲劇が始まります。
「ベンゾジアゼピン」は不眠症の短期間の治療には有用かもしれませんが、その処方は依存や有害作用といったリスクと利益をよく検討したうえでなされるべきです。
依存症がある薬剤のため、ベンゾジアゼピンは2~4週間以内の使用にとどめるべきで、断続的に最小有効量で用いることが望まれます。長期間の使用は有害な精神的・身体的影響に関する懸念のため推奨できません。
服用量をゆっくり徐々に減少させることによって、深刻な離脱症候群の発症の可能性を最小限にすることができます。
一方で、ベンゾジアゼピンの長期使用者の場合、彼らの意思に反してまで、離脱を強制することには慎重であるべきと考えます。これらの患者には、副作用の可能性を繰り返し説明し、自覚して減量してくれることを期待しながら、同じ処方を繰り返すことになります。
以上の事由から、「クリニック徳」では不眠や不安症状に対して、ベンゾジアゼピンの処方はできる限り避けるようにしています。そして、第一選択肢は認知行動療法と考えています。具体的には、適度な運動・散歩・自律神経訓練法(腹式呼吸・瞑想・気功・ヨーガ)などです。
クリニック徳では
○洋医学(内科、外科)
○東洋医学(鍼灸、漢方、整膚)
○伝統医学(瞑想、ヨーガ,気功)
○未来医学(波動医学、アンチエイジング)
以下のような疾患に対して、西洋薬を極力使用せずに,
様々な治療法で対処します。
「人は愛することで健康になれる ー愛のホルモン、オキシトシン」の著者、ドクター徳が自身の信じる『理想の医療』を目指して、
名古屋の伏見に全く新しいタイプのクリニックを最近オープンしました。
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2019年12月19日
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